オブザーバビリティとは何?
その本質と重要性について解説

オブザーバビリティ(Observability)とは、「Observe(観察する)」と「Ability(能力)」を組み合わせた日本語で、「可観測性」とも表現される概念です。
近年のクラウドネイティブな環境において、分散型ITシステム運用における新たな考え方として、高く注目されています。

本記事では、オブザーバビリティがなぜ必要とされるのか、その本質と重要性について、具体的に解説します。

1. オブザーバビリティの全体像

オブザーバビリティはシステム状況を総合的に可視化することで、障害発生時の迅速な原因特定を可能にします。まずは、オブザーバビリティの定義と必要とされる背景、モニタリング(監視)との違いについて順に確認しましょう。

1-1. オブザーバビリティとは

オブザーバビリティとは、システムやアプリケーション内部の状態を外部から把握する能力のことを指します。

システムの見える化の他にも、システムの動作やパフォーマンスをもとに問題点の根本原因や解決策を明確にするという重要な役割を担っています。
つまり、オブザーバビリティとは
障害発生時の迅速な原因特定と解決のための考え方であり、分散が進む現代のシステムを安定運用するためには欠かせない概念と言えます。

1-2. オブザーバビリティが必要とされる背景

近年のIT環境において、クラウドネイティブなアーキテクチャやマイクロサービスの導入が進み、システムの複雑性がますます高まっています。

このような環境では、従来行ってきたモニタリングだけでは、システムの全体像を把握することが難しくなります。

オブザーバビリティは、この複雑なシステムの動作を監視するだけではなく、包括的に管理し、迅速な問題解決を可能にするために生まれた概念となります。

1-3. オブザーバビリティとモニタリングの違い

オブザーバビリティは、モニタリングと同義で扱われることがありますが、厳密には異なる概念です。

オブザーバビリティは、問題点やボトルネックとなる原因を特定し、解決策を導き出すことまでを範囲とします。システムの全体像を理解するために、メトリクス、トレース、ログといったデータを収集し、分析することで、システムの内部状態を詳細に理解します。

一方、モニタリングは個別の指標やしきい値を設定して、システムの動作状況のチェックを行うための手法ですが、異常が発生した際には、その原因まで特定することはできません。

2. オブザーバビリティの構成要素

オブザーバビリティ実現には、メトリクス、トレース、ログという3つの要素を理解しておく必要があります。
これらのデータを統合して収集・分析することで、初めてシステム全体の状況把握が可能になります。

2-1. メトリクス

メトリクスとは、CPU使用率、メモリ使用量、ディスク使用量、ネットワークスループット、レスポンスタイムなど、システムのリソース使用状況やパフォーマンスを示す定量的な指標のことです。

これらのメトリクスデータをシステム構成要素ごとに収集し、トレンド分析やアラート監視を行うことで、システム全体の健全性や異常の有無を把握できます。

専用のメトリクス収集ツールのほか、クラウドベンダーが提供するモニタリングサービスでもメトリクスデータの収集が可能です。

2-2.トレース

トレースとは、マイクロサービスなどの分散システムにおいて、1つのリクエストが複数のサービスを横断する際の処理の流れを可視化したものです。
リクエストに付与されたユニークなトレースIDを元に、各サービスでの処理時間などの情報を記録・収集します。

トレースデータを可視化することで、どのサービスの処理に時間がかかっているかなど、リクエスト処理の動作状況を詳細に確認できます。
障害発生時には、その発生場所を特定しやすくなります。

2-3. ログ

ログとは、システム・アプリケーションの実行履歴を記録したデータのことです。
構造化されたログには、発生時刻、ホスト名、プロセスIDなどのメタデータと、具体的なイベントの詳細が記録されています。

障害発生時の原因究明には、欠かせない情報源となります。
なお、ログは、トラブルシューティングのほか、セキュリティ監視にも重要な役割を果たします。

複数のデータを統合的に収集・分析することで、システム全体の正確な状況把握と、障害発生時の迅速な原因特定が実現できることがオブザーバビリティの特長です。

3. オブザーバビリティの狙いと目的

オブザーバビリティの本質的な狙いは、システムの状態を包括的に管理・把握し、問題がある場合にはその原因を迅速かつ確実に特定できるようにすることです。

ここではその主要な目的を整理しましょう。

3-1. システムの動作状況の可視化

オブザーバビリティの最大の目的は、複雑化が進むシステム全体の動作状況を一元的に可視化することです。

サーバーのCPU使用率やメモリ使用量、ネットワークレイテンシー、アプリケーションのエラーログなど、さまざまなデータソースからメトリクス、ログ、トレースといったデータを収集し、統合して分析します。

これにより、システムがどのように動作し、どこに課題があるのかを正確に把握できるようになります。
個別の指標監視では見えにくい、システム全体の実際の挙動を把握できます。

3-2. 障害発生時の迅速な原因特定

従来の運用では、障害発生時にログを確認するなどして、原因を1つずつ個別に追っていく必要がありましたが、オブザーバビリティがあればトレースデータから問題があったリクエストの流れを詳細に可視化できます。

どのコンポーネントやサービスで問題が発生したのかを素早く特定でき、障害の原因追及が格段に早くなります。
さらに、複雑なシステムでも迅速な原因特定が可能になり、システムの復旧にかかる時間を大幅に短縮できます。

3-3. 事前の問題予兆の検知

オブザーバビリティは、継続的にメトリクスやログのデータパターンを分析することで、システムに問題の予兆がないかをリアルタイムに検知することもできます。
例えばレスポンスタイムの上昇トレンドや、エラーログの増加などの兆候を察知できれば、障害が発生する前に対策を講じることが可能です。
このように異常の予兆を検知することで、障害の発生自体を未然に防ぐことができるのです。

包括的なデータ収集と分析を行い、システムの状況を正確に把握し、障害発生時の迅速な対応とその予防を実現することで、オブザーバビリティはシステム全体の信頼性と可用性へ大幅な向上をもたらします。

4. ネットワークにおけるオブザーバビリティの重要性

システムのネットワーク環境や構成においてもオブザーバビリティは非常に重要です。

ネットワークは現代のシステムにおいて「インフラ」ともいえる不可欠な部分であり、その動作やパフォーマンスを適切に監視し、理解することは極めて重要です。

オブザーバビリティが、ネットワーク環境においてどのように重要となるのかを確認しましょう。

4-1. 障害検知とトラブルシューティング

ネットワークのオブザーバビリティを確保することで、ネットワーク機器やネットワークトラフィックの状況を詳細に把握でき、ネットワーク障害の検知と原因特定が容易になります。

具体的には、ネットワーク機器のCPU使用率やメモリ使用量、インターフェース利用率などのメトリクスを収集・監視します。
また、ネットワーク上のデータからトラフィックの動向をリアルタイムで可視化できます。
さらにネットワーク機器のログを収集・分析することで、障害の詳細な原因追及が可能となります。

これらの情報を統合的に収集・分析することで、パケットロスやネットワーク輻輳、ルーティングの異常などのネットワーク上の問題を早期に検知し、迅速にトラブルシューティングを行えるようになるでしょう。

4-2. セキュリティ監視

ネットワークにおけるオブザーバビリティは、ネットワークセキュリティの強化にも役立ちます。

ネットワーク上のデータを継続的に監視することで、不正なトラフィックや攻撃の痕跡を検知できます。
さらに、ネットワーク機器のセキュリティログを収集・分析すれば、具体的な攻撃手法や標的を特定できます。
ファイアウォールやIDSなどのセキュリティログと組み合わせれば、より高度な分析が可能です。

専用ツールを用いてこれらの情報を可視化すれば、リアルタイムでネットワークの脅威を検知し、迅速な対策を講じることができます。

4-3. トラフィック分析と予測

ネットワークのオブザーバビリティにより、ネットワークトラフィックの動向を詳細に分析できます。

たとえば、トラフィックの変動や利用ピーク、サービス毎の利用状況などを正確に把握することが可能となったり、帯域の拡張や経路変更の必要性を事前に検知したりすることもできます。
こうした情報を活用すれば、現行のネットワーク設計の適切性を評価し、将来的なトラフィック増加を予測して計画を立て、ネットワークの構成を最適化できます。

ソフトウェアによって仮想ネットワーク網を作るSD WAN(Software Defined WAN)は、オブザーバビリティのあるネットワークと言えます。

SD WANによってオフィスやデータセンターといった拠点間通信やクラウド接続のトラフィックを適切にコントロールすることで、ネットワークの可視性を向上することができます。また、国内外に多くの拠点をもつ企業などは、オーバーレイネットワークを仮想化して一元管理できるので、他拠点間の接続を行うWANであっても容易にコントロールすることができます。

通信事業者であるColtは、自社網を活用した「SD WANサービス」を提供しています。MPLS回線やインターネット回線などの異なる回線を組み合わせて仮想化されたオーバーレイネットワークを構築し、データの重要度に応じてトラフィックをインターネット回線に迂回させることでWAN環境を最適化します。

このように、ネットワークのオブザーバビリティを確保することでネットワークの安定運用とコストやリソースの最適化に大いに役立ちます。ネットワークにおけるオブザーバビリティは、迅速な障害検知と構成の最適化を行うために必須の要素といえるでしょう。

5. まとめ

本記事では、オブザーバビリティの概念と、システムおよびネットワークにおける重要性について解説しました。

オブザーバビリティの導入は、ITシステムの安定運用とパフォーマンス最適化に直結します。ITがビジネスの成功を左右する現代においては、オブザーバビリティはITシステムの要となる極めて重要な概念なのです。

ITシステムの堅牢性と可用性を高め、ビジネスの安定的な成長を実現するためにも、本記事を参考にオブザーバビリティの導入を進めていただければ幸いです。

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